My Generation (自転車と本、あるいは音楽)

自転車での走行記録とか好きな本や音楽などをメインにお届けします

「三千枚の金貨」宮本輝

宮本輝というと普通は芥川賞受賞作の「蛍川」とか「ドナウの旅人」辺りから入るのでしょうけど、わたしは馬好きなだけに「優駿」から入りました。これが失礼ながら期待以上に良くて非常に感銘を受けて以来、ポツポツと長編を読んでいます。今まで10編くらい長編を読みましたが、どれもよかったです。いつも思うのですが、宮本文学の登場人物はごく普通の市民が多いのですが、市井の人々が織り成す生活に宿る力強さとでも言えばいいのでしょうか?上手く言えないけどそういうものからパワーをもらってるような気がします。
もう一つ宮本文学の特徴としては「旅」ですね、主人公はいろんな理由で旅に出たりあるいは外国にショートステイしたりして様々に思いを巡らすのですが、自分も行きたくなってきます。

三千枚の金貨 上

三千枚の金貨 上

三千枚の金貨 下

三千枚の金貨 下

「三千枚の金貨」は雑誌「BRIO」に連載されてたそうですが、「BRIO」が休刊してしまったために後半の一部は書き下ろしという形になっています。雑誌のターゲット層がちょっとお金持ちのミドルエイジ以上だったためか、作品の主人公も文具会社の役員という設定になっています。主人公の斉木光生と同じ会社に勤める同僚の川岸、宇津木と斉木らが贔屓にしているバーのオーナーで女性、沙都の4人は、和歌山のどこかに埋められたであろうメープル金貨三千枚を探しだす..というのがストーリーの幹ですが、そこは宮本作品、脇ではいろんなエピソードが展開されます。金貨を探す過程で彼らは人生や社会、家庭において何が重要か、どう生きるのかを気づかされたり、考えて行く..作者が我々にちょっと立ち止まって考えてみたら?と言ってる気がします。
読後感ですが、過去の宮本作品に比べるとちょっと軽めかなという気はしました。でも宮本文学のエッセンスはきっちり詰まってますし、前向きな気持ちになれますね。