My Generation (自転車と本、あるいは音楽)

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アナログレコードと不思議なレコード屋のこと

最近アナログレコードが売れているらしい。毎年4月にレコード・ストア・デイというイベントがあり、この日にアナログで限定盤が出ることもあって(オンラインでは買えないらしい)、なかなか盛況のようだ。

RECORD STORE DAY JAPAN

今年は椎名林檎とかThe Bawdiesといった名前が並んでいる。限定盤だけでなく、最近の新譜ではアナログ盤も同時に出る事が多いし、オヤジ狙いのリマスター盤なんかもだいたいアナログ盤が出てくるからそれなりに売れていることは確かなんだろう。

Sticky Fingers [Analog]

Sticky Fingers [Analog]

アナログ盤の魅力の一つとしてはジャケットにアート性があることだろうか。LPは大きいこともあり、いろんなギミックがあった。ジャケットにジッパーが付いたStonesの“Sticky Fingers"や、顔が動くFacesの“Ooh La La"など持ってることがうれしいような感じだった。

反面、素材が塩化ビニールなので傷つけると針が飛んだり、熱にも弱くすぐ反ってしまったりと何かとデリケートで扱いには注意が必要だった。CDなら輸入盤でも気にせずに買えるけど、輸入アナログ盤は船便とかで運ばれてくるんでもうどうしようなく反っていたり、レコード盤を包む中袋がなかったりとなかなか買うには勇気が要ったことを思い出す。

レコード屋も個性的な店が多かった。いろんな店があったが特に名古屋にあった輸入レコード屋のことが印象に残っている。

当時高校生だったワタシはバイト代で中古レコードを買うようになっており、栄や大須にあった「バナナレコード」や千種にあった「ピーカンファッジ」あたりで中古レコードを探していた。今と違って昔は新譜が中古に出てくることはまずなかった。中古市場に出てくるのは人気のないものが多く、稀にいいブツが出てきてもすぐに売れてしまうので、欲しいものは根気よく通って探す必要があった。また確率をあげるためにショップは多く知ってるほうがよかった。

そのレコード屋は名古屋市中区新栄にあり、確か雲竜ホールの近くだったと思う。名前は忘れてしまったけど、タウン誌にはよく広告が出ていて「ここだけにしかないレコードを」というような感じの広告で、ちょっと気になっていた。新栄は自宅から自転車でいける範囲だったが、あまり土地勘のある所でもなく、広告を見てからもしばらくは行かなかった。高2くらいからStonesに嵌っていたが、なかなか中古屋にブツがなかったので一度そのレコード屋に行ってみる事にした。

ある平日の夕方に行ってみたが、大通に面しているハズなのになかなかその店はわからなかった。ようやく探し当てた店はレコード屋というよりは普通の民家だった。普通店というのは外から中が見えるような作りになっているが、その店の扉はガラスではあったが中があまり見えなかった。入るべきかかなり躊躇したがここまで来たんやしと思い、ガラスの引き戸を引いて入った。

店内に入ると薄暗い土間に少しレコードが置いてあったが、店というにはあまりに少なすぎる。予期していなかった事態に呆然としていると、奥からじいさんが出てきて、「何しに来た?」と言う。いや、何しにってレコード屋に来たんですけど。「レコードを探しに」と答えると「何探してるんや?」とじいさん。Stonesを探していると言うと「とりあえず上がれ」と言われ、なんかしまったことになったと思いながら中に入る事に。

店内というか応接間のようなところに入ったら先客が1人、30代くらいの男性がいた。そこには土間よりはたくさんのレコードが置いてあったが、店というにはやはり絶対的な数が少なすぎた。

じいさんはワタシに対し、「どっから来た?」『高校生か?どこの高校や」「大学はどこに行くつもりや」とかいろいろ聞いてきた。こっちはレコードを探しに来てるのに、そんなこと関係ないやろと思いながら一応は答えた。

じいさん 「普段はどこでレコード買っとる?」
ワタシ  「金がないんで中古屋が多いです。」
じいさん 「輸入盤はどこで買うんや?」
ワタシ  「タワーレコードとか…」
じいさん 「そういうのを タ・ワ・ケ*1というんや」
ワタシ  「はあ…」(タワケで悪かったな)
じいさん (笑いながら)「普通のレコード屋みたいじゃなくてビックリしたか?」
ワタシ  「だいぶビックリしました」(そらそうやろ。どう見ても普通の民家やし) じいさん 「うちで扱ってるレコードは特別なんや。枚数が少なく注文販売みたいになるから普通のレコード屋みたいにはできん』

聞くとここで扱ってるレコードは一般に流通しているものではなく、放送局用とかに流れているものらしい。で、カッティングがどうも特殊らしく音がいいんだそう。いくつか聴き比べをさせてくれたが、確かにいい音がする。何と言うか音の広がりがいいのである。

じいさん 「どうや、いい音やろ。ここに来たもんはみんなレコード買い直しだて。(先客の男性を差し)この人もPink Floyd全部持ってるけど買い直し」
ワタシ  「えっ、そうなんですか?」
男性   「この音を聴いたらもう買い直さない訳には行かないです」
じいさん 「オマエは何探しとるんや?。数が少ないんでも手に入らんもんもある」
ワタシ  「Stonesを探してます」
じいさん 「あーStonesか、いくつかはもうないかもしれんわ」

そして特別な盤ということで割高になるらしく、正直高校生には厳しいとじいさんは言った。「とにかく大学に合格したらまた来なさい。レコードはそれからでええ。まずはちゃんと勉強せにゃいかん。」とじいさんに送り出され家路についた。

なんだか説教されに行ったみたいなもんだったが、今思い返しても不思議なレコード屋だった。結局大学は地方の大学に行く事になり、大学を卒業するとレコードからCDの時代に変わり、その店に行くこともそこでレコードを買うこともなかったのだが、何故だか今でもそのレコード屋に行った事を思い出す。あの特別なレコードは今でもどこかに存在してるのだろうか。

*1:名古屋近辺ではバカとかアホと言わずにタワケという