My Generation (自転車と本、あるいは音楽)

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「福島第一原発事故七つの謎」

NHKスペシャルとして放送された番組を書籍化したものである。残念ながら番組のほうはあまり見た事がなかったのだが、番組を踏襲した内容となっているよう。福島第一原発に関してはいろいろな本が出版されているが、この本は事故を振り返るとっかかりとしてかなりよいと思う。

構成としては残念ながらメルトダウンしてしまった福島第一原発において、事故後の検証でも何故だか分からなかった問題を謎として取り上げており、非常に興味深く読んだ。ここでは冒頭に記載されている謎について取り上げてみたい。

1号機の冷却機能喪失はなぜ見逃されたのか?

1号機に限らず各機にはIC・非常用復水器と呼ばれる冷却装置が取り付けられており、これらは一度機能すれば電源も必要とせず、原発からの蒸気だけで運転ができるものであった。津波が来て発電所全体の電源が落ちる前に1号機ICの起動は確認されていたため、電源不要ということもあり電源喪失後もずっと動いていると誤認識されていた。しかしながらICは津波到来後停止していたのである。なぜICが起動しているとされたのか?本書では下記が指摘されている。

  • ICは40年前の本稼働前に試験運転されて以後動いたことがなく、発電所に勤務している誰もが起動するとどういう状況になるのか把握していなかった。運転時には原発からの蒸気で動作するので排気口から激しく蒸気が出るのだが、それを的確に判断できる人材がいなかった。
  • 電源喪失時にはICへの蒸気が流れる配管は自動的に弁が閉じられる仕組みとなっていた。これは炉心の蒸気は放射能濃度が高いための措置であるがそのことに知見のある人材がいなかった。

ちょっとにわかには信じ難い事態で、テスト・訓練していないものが本番で機能しないのはある意味当然のことである。米国に同様のICを持つ原発があるが、毎年訓練で動かしているそうである。なぜ日本では訓練しなかったのだろうか。

他の謎も想定外のことで発生してしまった現象を取り上げているが、原発の難しさはここにあり、運転時と同じ試験はできないため*1擬似的な試験に頼らざるを得ないが、疑似は疑似であってやはり本当の試験にはならない。阪神地震でも想定外だったために高速道路は倒壊した。いつどこで発生するかわからない自然現象は基本的に想定外のものと思ったほうよく、そして想定外でも何とかならないものは基本的に動かさないほうがいいのではないだろうか?

*1:過酷な試験をして失敗すれば大惨事になってしまう