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My Generation (自転車と本、あるいは音楽)

自転車での走行記録とか好きな本や音楽などをメインにお届けします

「氷山の南」、「Atomic Box」 池澤夏樹

book

池澤夏樹氏は好きな作家の1人である。といいながら読めてない長編もあり、最近読んだのでここにご紹介。

氷山の南 (文春文庫)

氷山の南 (文春文庫)

一つ目は「氷山の南」。カイザワ・ジンという少年が南極の氷山を曳航するという船に乗船するというところから始まる。乗船するといっても密航者としてである。乗船後に見つかって船内新聞の記者、船内食堂でパン作りという仕事を与えられる。無事氷山を曳航し船は帰路につく。順調だった航海にエコロジストの団体から妨害が入り、前途が危ぶまれるようになる。そして…というストーリーである。

宮崎駿も言っている通り少年(少女)の冒険談というのは物語としては非常に正当的であるが、本書もその例にもれない。船旅というのはただ海の上を移動するだけなので、天候以外には変わる要素があまりないが、乗員を国際色豊かにして彼らにインタビューをする記者を努めることで単調さをカバーしている。途中でカヌーを出して氷山の周りを漕いだり、氷山の上でキャンプをしてみたり面白いエピソードを挟み飽きさせない。結末も意外さがあり楽しく読めた。

アトミック・ボックス

アトミック・ボックス

もう一冊は「Atomic Box」。タイトルから想像できるとおりこれはポスト「3.11」文学である。27歳の社会学者である美汐はガンで死んだ父から遺言によって秘密を託されていた。父が死んだ翌日警察がその秘密を探りに来た。どうも漁師だった父はずっと公安がマークしていたらしい。その秘密は「核」に関することだった。

美汐は一旦警察から逃げて、父が懇意にしていた地元の記者を巻き込みながら秘密の本丸に切り込むことを画策する。「氷山の南」と比べると警察からの逃避行がある分、格段にスリリングで一気に読める。最後に秘密と向合うことになるのだが、その場面は圧巻である。

私が氏の作品を好きな点としては科学的な題材を取りあげるところ、そしてそのディテールをおろそかにしないところである。例えば「氷山の南」では南極の氷を持ってくるのに氷山を曳航するという方法を取っているが、その方法の詳細について科学的な所も含めて書いてあり説得力があり、物語の厚みが違ってくる。そして環境的なことや核という重いものをテーマにしながらも、小説なのでエンターテインメントな部分もしっかり書いており過度に重いものとはなっていない点である。2冊とも面白い本なので、興味を持った方は是非読んで欲しいです。