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「すべての道はローマに通ず」塩野七生著

ローマ人の物語〈27〉すべての道はローマに通ず〈上〉 (新潮文庫)

ローマ人の物語〈27〉すべての道はローマに通ず〈上〉 (新潮文庫)

この作品は塩野七生ローマ人の物語」の一作で本編とは別にローマ人が築いたインフラに絞って書かれている。本編も非常に面白いが、この別冊も実に面白い。ローマ人は街道(橋を含む)、水道、公共浴場、劇場など多様なインフラを構築したが、上巻では主に街道を、下巻では水道と医療・教育といったソフト面についても書かれている。
ローマという国家が栄えたのは2000年以上も前のことだが、紀元2世紀には街道は幹線だけでも8万kmも整備されていたそうで、まさに「すべての道はローマに通ず」である。構造的にも立派なもので車道幅4mの両脇に3m幅の歩道がくっついていたらしい。当時の馬車が大体幅1.5mくらいだったらしく、これは現代では両側歩道付きの片側一車線ずつの道路に相当する。今の日本でも地方に行くと歩道がない道路も普通にあるくらいで実に贅沢な造りだ。路面もただ踏み固めただけでなく敷石がしっかりと敷き詰められており、両側には排水溝もあったらしく考えられたものになっていた。現代のイタリアのシングル・ナンバー国道はほぼこのローマ街道が通っていたところを踏襲しているそうだ。
ローマ人の物語〈28〉すべての道はローマに通ず〈下〉 (新潮文庫)

ローマ人の物語〈28〉すべての道はローマに通ず〈下〉 (新潮文庫)

下巻のほうは水道の話が半分くらい。水道のほうも興味深い話が満載で、ローマ水道というと高架橋のイメージが強いが(よく教科書に載っている)実は地上部分は全体の1割程度で殆どが地下を通っていたそうだ。平均で70mおきに共同で使える給水口がありそこを使えば無料、有料だが自宅に引きこむこともできたそうである。現代でも途上国では水がなくて困ってるところもあるのに、遥か2000年前にそれだけのシステムを構築していたとはちょっとびっくりである。少し前に「テルマエ・ロマエ」という映画がヒットしたが、あの映画に描かれた通りローマ人は大層風呂好き*1だったようで、水道なくしてはああいう施設は作れないであろう。衛生面においても水道は貢献しており、ローマ時代というのは他の時代に比べると疫病があまり流行しなかったらしい。
しかし、帝国に勢いがなくなりインフラの維持費用にお金が出なくなってくると街道も水道も機能しなくなり、ローマ帝国が滅亡した後は近世になるまでこのようなインフラに熱心な国は出てこなかった。維持費用が出なくなって廃れたとは先日紹介した「朽ちるインフラ」と同じだなあと思ったり、そういう点でもローマ人の先駆的なところに感心したり。技術は進歩しても人間社会って実は根本的なところはそれほど進歩してないのかもしれない。

*1:ブリタニアという名の属州だったイギリスにも浴場の遺跡があるらしい