My Generation (自転車と本、あるいは音楽)

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「しなやかな日本列島のつくり方」

藻谷浩介対話集 しなやかな日本列島のつくりかた

藻谷浩介対話集 しなやかな日本列島のつくりかた

里山資本主義」の著者、藻谷浩介氏と地方活性化に取り組む人々のとの対談集。地方活性化としては一通り取り上げている感じで、テーマは「商店街」、「農業」、「観光地」、「限界集落」、「医療」、「赤字鉄道」、「ユーカリが丘」と多岐に渡っている。どの話も考えさせられる点がたくさんあるのだが、特に感銘を受けたこともあり「ユーカリが丘」の話を取り上げたい。

ユーカリが丘の奇跡」

ユーカリが丘とは不動産の山万株式会社が千葉県佐倉市に展開するニュータウンのことであるが、このニュータウンは最近色々と取り上げられているので、知っている方もいるだろう。この本では山万の社長嶋田氏との対談が収められている。

私はこの本を読むまでユーカリが丘のことは全く知らなかったので、ユーカリが丘の開発の経緯を知るにあたってかなり驚いてしまった。ユーカリが丘が他のニュータウンと違う点として下記が挙げられる。

  1. 開発年数が長い。1979年に第一期の販売が開始。現在も新規に販売している区画がある。

  2. 新交通システムとして「ユーカリが丘線」が通っている。そしてこの路線は山万が運営している。

  3. 私鉄として京成電鉄が通っており、駅にコミュニティホテルがある。冠婚葬祭なんかでニュータウンにも宿泊のニーズはあるが実際に運営されているところはあまりないだろう。

  4. NHK文化センター」がある。ちなみに県庁所在地、政令指定都市以外にNHK文化センターがあるのはここ以外にはない。センターが出来たおかげでホテルの稼働率もあがったそうだ。

  5. かなり早い段階からシネコンがあり、撤退していない。

  6. 子育て支援の施設や介護つき老人ホームもデベロッパーである山万が運営している。

まず普通のデベロッパーというのは分譲完売すれば終わりで、地域に腰を据えてじっくり開発するなんてことはしない。住都公団なんかでも基本売ったらおしまいである。これだけでもちょっと考えられないことだが、自前で鉄道を作ってしまうとか俄には信じ難い話である。文化的なことも力を入れていて「NHK文化センター」のようなカルチャーセンターも相当な規模の都市でないと基本ないものである。社長の嶋田氏が「街にはいろんな機能がないといけない、そうでないといろんな世代の人を繋ぎ止めておけない。」という意味のことを語っておられるのがとても印象的で、まさにそうだと思うのだが、鉄道会社が分譲する住宅地ではこういうことは絶対にやらない。都市機能を分譲地に持たせてしまうと鉄道に乗ってもらえなくなってしまうからである。結果として、売りっぱなしのニュータウンでは地域全体が高齢化して問題となっているが、「ユーカリが丘」では若い人の流入があり、地域が健全に発展している。

そして何よりもバブルに踊らされずにコツコツ開発を継続してきたということが凄い。一つには山万が株式公開をしていないということが大きいのだろう。だいたいどこの企業も社会や地域に貢献します的なことを会社の方針として掲げておいて内実は商売のことしか考えていないものだが、山万のような会社が存在するということを知り、日本もまだ捨てたもんじゃないなと思った。